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米国での人工妊娠中絶に関する動き

掲載日:2022年12月15日/更新日:2025年2月12日

『にじのかけはし』第17回より

2022年6月、米国で衝撃的な出来事がありました。米国の連邦最高裁 判所が、”人工妊娠中絶は憲法で認められた女性の権利”とした1973年の 判決を破棄したのです。

女性たちが長年かけて勝ち取った権利が覆され た瞬間でした。結果、中絶を認めるか否かの判断は各州に委ねられ、す でに複数の州で中絶が禁止されました。暴行などによる妊娠であっても 妊娠6週目以降の中絶を全面禁止した州や、中絶を行った医師を第三者 が訴えることも可能とした州もあります。

こうした政策は、安全で合法的な中絶医療へのアクセスを阻害し、結 果として死亡率を増加させると言われています。また中絶を受けるため に遠距離を移動できる恵まれた人たちよりも、所得が低かったり、もと もと十分なケアを受けることが難しい人たちに、より大きく影響をおよ ぼし、健康格差を悪化させるとも指摘されています。

連邦最高裁判所の判事は9人いますが、トランプ政権の間にトランプ 米国での人工妊娠中絶に 関する動き 第17回 37 氏が指名した3人が新たに就任し、この決定がなされた際には、保守派 が6人、リベラル派が3人という構成でした。米国では最高裁判事の任 期は終身制であり、この体制はしばらく続くと言われていて、今後同性 婚の権利にも影響がおよぶことが懸念されています。

この判決は一朝一夕でなされたものではありませんでした。キリスト 教信仰にもとづき、「中絶は許されるものではなく、すべてのいのちを守 るべきだ」と考える一部の人たちは、長い年月をかけて中絶に反対の意 を示してきました。私自身もクリスチャンではありますが、セクシュア ル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(セクシュアリティーや生殖に 関する健康や権利)を医師として守りたいと考えていますし、自身の性 に関する健康や権利も守ってほしいと思っています。

私は、米国のように宗教と政治とが密接に絡み合う社会は一筋縄では いかないんだなと思いつつ、暗い気持ちでこの報道を追っていました。 しかし日本でも宗教と政治が絡み合って、まさに性教育や夫婦別姓、同 性婚が阻止されていることを、この時はまだ知りませんでした。



参考:日本の現状も深刻です。刑法で「妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の 方法により、堕胎したときは、1年以下の懲役に処する」(第212条)という自己堕 胎罪が規定されています(女性に参政権すら認められていなかった明治時代のまま の法律です)。更に、母体保護法に基づき人工妊娠中絶の手術を受けるときには、原 則、配偶者の同意が求められ、女性の自己決定権(リプロダクティブ・ヘルス&ラ イツ)を認めていません。