アドボケイト
掲載日:2023年2月6日/更新日:2025年2月26日
『にじのかけはし』第20回より
みなさんは医療・介護・福祉に携わるなかで、「個人的なことは政治的 なこと」だと感じたことはあるでしょうか。
私は診察室で、患者の健康 状態の背景に根本的な社会や政治の課題があると知りつつも、何もでき ずに無力感に襲われることがあります。LGBTについてもそういった 側面があり、医療機関での対応が変わっても、社会全体の偏見・差別が なくならなければ健康格差は解消されないでしょう。
しかし以前は、国や自治体の政策を決めるのは政治家で、私にできる のは選挙に行くことだけだと思い、医師として政策に対し声をあげるの には抵抗感がありました。
その考えが打ち砕かれたのも、カナダへの医 療視察でした。カナダの家庭医たちは、社会的正義のためにミクロ(患 者・医師関係)、メゾ(地域社会)、マクロ(政治や政策)という3つの レベルの視点を学び、実践していました。
実際にカナダでは、地域住民 の健康を守るため、医師が「低賃金や少ない休暇が住民の健康を害している」と積極的にデモ活動や広報を行い、最低賃金の引き上げや有給休 暇制度を導入させるなど、州レベルの政策を動かしていました。
こうし た、何らかの理由により自分で権利を行使することが難しい人に代わっ て権利を守ったり、権利の実現をサポートすること、代弁者のことをア ドボケイトと言います。世界医師会は、すべての医師に「すべての国民 が必要な予防や医療を公平に受けられるようアドボケイトすること」を 求める声明を出しています。カナダの家庭医たちは、まさにこのアドボ ケイトを行っていたのです。
カナダの視察に行くまで、私は国や自治体の政策に対し、さかんに声 をあげる民医連に共感しつつも、変わった集団だと思って少し距離を取 っていました。しかし世界に目を向けてみると、「政治家でもないのに政 治的なことを言うべきではない」という日本の雰囲気の方が変わってい るのかも、と思うようになりました。医療・介護・福祉に携わる私たち だからこそ、見えることがあります。今は、無力感にとらわれて終わる のではなく、カナダの家庭医たちのように、何かアドボケイトできるこ とはないかと考えるようになりました。


参考:「医師のためのベストアドバイス 健康の社会的決定要因」カナダ家庭医協会 版 日本HPHネットワーク翻訳(2017年10月) https://www.hphnet.jp/study-data/1807